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筋電メディカル徒然日記

2021年07月09日

徒然日記 26
悲劇再び、そして筋電メディカルへ

テレビのスペシャル番組で、2020東京オリンピックを物語風に取材した番組をやっていた。
 
コロナ騒ぎのせいで、すっかりオリンピックの影が薄くなってしまった。本来なら、出場する選手たちを報道している時であろうに「オリンピックをやる、やらない」とか「観客を入れる、入れない」とか、コロナ絡みの報道ばかりだ。1年延びただけでも選手の状態が変わってしまうのに、精神状態も悪くなるだろう。楽しみにしている人たちも口に出せないだろうし、何の政治的な問題もない選手たちは、たまったものじゃない。
延長を決めた時にIOCのバッハ会長は「もう延長は無い!やるか、中止かの二者択一だ」と言ったはずなのに、いまさらながら中止の話が出る。政府諮問機関の最近の尾身会長の発言は歯切れがよく、わかりやすくて有り難いが、あまりにも遅かった。
どちらにしても、主催者側の全ての人たちがコロナを甘くみていたに違いないのだ。
初めての経験といっても、約100年前にスペイン風邪で日本人だけでも30万人以上の人たちが命を落とした。『方丈記』でも、京の都で大津波、大火災、大伝染病のことが記されている。歴史を学んでいれば、決して「初めての経験、予想だにしない経験」とはいえまい。
 
横道にそれたが、それはコロナのことは抜きに、純粋に選手にスポットを当てた番組で、体操で有望視されている谷川兄弟の物語だった。画面には、兄の航と弟の翔の小学時代の映像が流れていた。教室か体育館か、兄弟は、ランドセルを背負ったままで4、5回バク転を繰り返す。2人並んでシンクロしたように合わせたバク転に、私は驚いた。
場面は変わり、卒業式である。もちろん2歳違いの兄弟だから、2年を経て別々に撮った映像だろうが、校長から卒業証書を授与される前に壇上から抱負を述べている2人の言葉は、さほど変わらない。「大きくなったら、体操の選手になります!そして、オリンピックに出て金メダルをとります」。
 
2021年4月16日、そのチャンスが訪れた。体操の東京オリンピック代表選考会を兼ねた個人総合の全日本選手権が、群馬県の高崎アリーナで行われたのだ。兄の航は、あん馬で落下したものの、得意の跳馬で高得点を出した。弟の翔は、2018年から鉄棒で2連覇している。白い粉を両手に刷り込み、補助者の手を借りて鉄棒につかまった。さぁこれから大技が観られると思った時、彼は鉄棒から落下したのだ。彼はしばらく動けなかった。大きな怪我はないようである。しかし、今回のオリンピックの出場は、無理だろうと思われる。彼は、涙を流した。顔中が涙で濡れている。拭っても、拭っても涙は溢れた。冷酷にも、カメラがその顔をアップで追い続けた。
だが彼には、まだ次のオリンピックがある。思い出した。もっと辛い思いを乗り越えた人を!森谷敏夫教授である。悲劇があったからこそ、「筋電メディカル」があるのだ!

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹