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筋電メディカル徒然日記

2022年03月04日

徒然日記 59
マンションの住人(休憩時間)

とにかく大きなマンションである。私と同じ後期高齢者で仲良くなった老人たちもいるが、誰に訊いてもマンションの部屋数はまちまちで、何人住んでいるかも定かでは無い。しかし、住人専用のコンビニがあるし、営業し続けているのだから何千人も住んでいるのだろうと思う。
 
敷地には、3棟ある。もともとが石川島播磨重工業、現在のIHIの造船ドッグの跡地を三井とIHIが共同で開発したマンションであり、古地図によると江戸湾に浮かぶ石川島の上にあるのだ。その1棟は、デカい!タワー型のマンションで、1階は、タイのバンコクでよく泊まったホテルのラウンジのような設えで、自動グランドピアノがいつも音楽を流している。コーヒーショップもあり値段も安い。最上階50何階にはバーがあって天気の良い日には富士山も見え、夜にはレインボーブリッジや東京タワー、スカイツリーまでが煌めいて見える。眼下は、隅田川なのだ。酒も安いと聞く。ただ、建物が大きいから、四角いタワーの中は伽藍堂の吹き抜けで部屋の出入りは寒い。真冬は、コンビニに行くにも、カフェに行くにも、ここの棟の住人は、コートを着ている。
 
もう1棟は、隅田川添いに屏風のように建てられている。タワー棟と2階で渡り廊下で繋がる。渡り廊下も何層もあり、廊下の上にホテルクラスのお客専用の大小4~5室の部屋がある。そのまた上の階は、小さなプールとジャグジー温水プールがあるが、ここは、もちろん水着でなければ入れない。男女別になっているロッカーから中階段を上がるとジャグジー風呂とサウナがあり、ここは裸でコロナの流行までは一緒に何人でも入れた。
屏風状の棟は、中廊下だから寒くはない。勉強室や、本を読むスペースがあり屋内で小さな子供達を遊ばせる部屋もある。後1棟は晴海通りに面していて、1階がメディカルモールになっている。
 
こう書けば、いや、まぁ、豪勢なことですねぇ、ちょっとあんた、それ自慢?と、言われそうだ。現在はそうだが、引っ越した頃10年以上前、周りは、雑草の茂る原っぱだった。マンション発売時の抽選は、かなり難関だったようだが価格は、東京ではリーズナブルで、他所と比較すると割安だったかも知れない。
が、その広い敷地を持つマンションが建ったものだから、ここに住みたいと多くの人が希望したに違いない。銀座まで3駅、東京駅まで20分も魅力だった。10年で雨後の竹の子のように建ち、タワーマンションのメッカとなってしまった。初めの頃は、若夫婦でもローンを組めば買えるマンションだったから、若夫婦や子供が多い街が出来上がった。
 
が、私と共に年を取った連中も住んでいる。以前から年寄だったが、まだ溌剌とし「ジム通い」なり「ゴルフ通い」「図書館通い」をしていた爺たちは、真っ白な白髪頭やオール禿頭になり、杖をつく者、車椅子に頼る者、手が始終震えている者、まったく姿を見なくなった者と化した。シネコンが、レストラン街が、隣のビルにあって環境は良いのだが、コロナやオミクロンが怖くて行けないのだから、猫に小判である。映画も好きなだけ観て、老人同士手を繋いで歩けるのが、幸せなのかも知れないと思うのだが。

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹