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筋電メディカル徒然日記

2021年11月26日

徒然日記 46
爺様の話の續き

あえて「続」を旧字にしなくてもよかった。が、キーボードを叩いたら出てきてしまったから消すのが面倒になり、そのまま使った。私が若い頃『オール讀物』という小説雑誌の編集者をしていたから、この字に妙に愛着があるのかも知れない。
 
先週書いた私の住むマンションの爺様の話である。續きが起きてしまったらしい!奥方が骨粗しょう症で背中が丸まってきて、心配になり、あちこちの病院をまわったという話を私にした爺様だ。あれから1週間足らず、マンションのスモーキングエリア、喫煙所に行ったら待ち構えたようなタイミングで私を呼んだ!
「いや~、ちょっと遅かった!」「何がです?」「女房がね、滑ったんだよ!骨を折っちゃった!ちょうど、地下に車寄せがあるでしょ?ガラスの扉が2枚あって女房が出ようとしたタイミングに入ろうとした人がいたらしいんですよ!そこで鉢合わせ、女房が気づいた時には、もう聖路加」
 
読者の皆様、わかります?この会話!目の前にしていた私でも、わからなかったんですよ!自分の住むマンションで、地下の車寄せも行きますが、ガラスの扉が2枚?とにかくお互い老人ですから、わからなくても頷いていれば、ことは済みます。わからないからと言って聞き返すと同じようなことを何べんも言い直して、ますますわからなくなってしまうのです。私が後期高齢者ですから、そのへんは心得ています。聞き返してはダメ!パニックを起こしてしまうかも知れません。
 
「それで、奥様は?」私は、冷静沈着を装ってお訊ねしました。「それが、えらいことになりましてね、すってんと転んだ拍子にゴキッと音がしたそうです!」救急車で搬送されて近くにある聖路加病院に行ったそうだ。「頭のほうは、スキャンで診ても大丈夫そうです!しかし、股関節や大腿骨が結構複雑に折れてましてねぇ!」
お医者様に言われたそうです。「この病院では、この治療ができませんから!」そう言われて、また救急車で、今度は虎ノ門にある病院に入院することになったそうです!
「2週間は、病院生活しなきゃならないようでね、その後リハビリ病院を探さなきゃならないんですよ!」
 
80歳を過ぎて、奥方が入院生活になればご自分の世話も大変だろうに!「なかなかないんですよ、近くじゃないとこっちが困るしね」
「あっ、私の叔母が入院した木村病院がすぐ傍にありますよ、あそこだったらタクシーでワンメーターが、ツーメーターが行けますよ」親切のつもりで私は言った。その爺様は、代々この近くに住んでいる家だから私より知っているはずだが、キョトンとしている。
「大丈夫ですよ、お怪我の前にもお伝えした通り、京大の名誉教授で筋肉先生の渾名を持つ森谷敏夫先生の筋電メディカルは、そういう方のためにあるんですから」私は、前回お会いしたことを繰り返した。「森谷先生のお名前はメモしてありますが、病院は大丈夫ですかねぇ!」大丈夫ですと私は答えた。そしてリハビリ病院は、塩浜にある木村病院ですよと念を押した。が、また爺様はキョトンとされた。
 
そこで別れ、私は部屋に戻りかけた!急に自分の間違っていたことを知った!あの「キョトン」のことだ!木村病院ではなかった。鈴木病院だった!何せ先方のお名前も知らないし、部屋もわからない!次に爺様に会うまで、訂正できないでいる。

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹